シリーズ・私のバイト先 〜 個別指導塾編(Y君編・その2)

とにかく、夏までに体裁を整えなくてはならない。
2ヶ月間で主だった英文法の骨格を掴んでもらわなくてはどうしようもない。
本来なら夏初め、遅くとも秋口には赤本を解き始めなくてはならないのだ。


しかし僕はすぐに、彼は「ただ勉強していなかっただけ」で、ポテンシャルはある、ということに気づく。
演習書は文法事項ごとの構成だ。教育開発出版の「高校リード問題集 英文法A」と言えば分かる人にはわかるだろう。有名なテキストだ。


各章を週1回の授業でこなしていく。1回で1章を終わらすペースだ。


……「能力が無い」、ということが罪になるなら、僕はY君に何かの償いをしなければならないのかもしれない。
僕が当時持っていた、指導方法の選択肢はあまりに少なかった。


例えば週2回の授業にしてもらうとか、宿題を鬼のように出すとか、いくらでもやりようがあることが、当時の僕には分からなかったのだ。


とにかくハイペースで、もらさず。そのことだけが頭にあった。
……彼がついてきているかどうかを別にして。


そう、いつしか彼は徐々に僕のペースに追いつけなくなっていたのだ。


夏期本番、8月頭。
予定より授業5コマ分遅れ、我々は関係副詞を終えた。


前半はよかったにしても、後半は理解しきっていない可能性が強い。
それに関係副詞まで終えたところで、まだ半分だ。


各品詞の性質は飛ばすつもりであったから、予定通り行けば終わっていたはずだ。


彼は僕を強く信頼してくれている。
Yよりただ一つ年上であるだけの、19歳の青年だったのに。


僕は混乱し始めていた。どうすればいいんだ。どうすれば。(続く)