Rememberance of things past

すっかり秋めいたきた晩の空気を自転車で切りながら、空気のにおいを感じていた。凛とした寒気は冬のにおいがした。


この匂いを嗅ぐと中学生時代を思い出す。この冬の、ちょうど夜がやってきた時間は私が塾に出かけた時間なのだ。勉強熱心ではなかったが、親も私の将来を気遣ってか、何事も強制されることが嫌いな私にも寛容な、宿題を忘れても怒らない塾を選んで私を入れた。
宿題を忘れる、というか、意識的にサボタージュする子供だった。宿題というのは授業での説明と演習で理解しきれなかった生徒がするものであり、骨子が理解できたならやらなくてよいものだという信念を貫いたのだ。
それでも申し訳程度には問題を解いておかねば先生の目は冷たいので、出発10分ほど前から簡素な問題を選んでノートに解いた。解答は見ずに丸をつけたこともある。すると大体遅刻寸前の時間になり、急いで支度を整えて家を飛び出す、ということを週3回やっていた。宿題は平気でやらないくせに遅刻だけは嫌ったというムラのある子供だった。
家から飛び出し、マウンテンバイクのギアを華麗にシフトチェンジしつつ、近所の大通りを塾に向かって原付並みの速度で爆走する。背中に背負った3wayバックが水銀灯に照らされながら揺れていた。授業開始直前に塾にもぐりこんで、友人にもっと早く来い、と笑われる。
そして先生がやってきて、宿題をチェックする。
私の番が回ってきて、先生に「綾名! もうちょっと宿題やろうな☆」とでこピンされ、私は「あはは、わかりました」と言うのだ。先週も、今週もそう言った。来週もそう言うだろう。教室中から綾名君はしょうがないなぁ、と笑いが起こっていた。毎週。


そんな日々のことを、匂いが思い起こさせたのだ。今日の空気は、あの日々の匂いに似ていた。
理由はわからないけど、また頑張れる気がした。