ES細胞とヒトクローン胚について

たまには理系エントリ。まったくの素人向けに少しは学術的なことを書いてみる練習です。こういうことをかける場所が私にはここしかないのでw 今年最後のエントリはまた後で書きますね。テーマは「ES細胞」。あの問題にも言及したいです。
アホみたいに長くなったので「続きを読む」しておきました。


まずES細胞とは何でしょうか? ということを。ES細胞と聞くだけで難しそうなイメージがありますが、大抵の学術用語はわざと難しく聞こえるようにつけてるだけです。ES細胞は単に「発達途中の赤ちゃんの細胞」です。
私たちは受精卵から分裂に分裂を重ねてヒトの形になるわけですが、一番最初は受精卵という細胞1個の状態です。分裂して2個、4個、8個……と増えていくわけですが、いつしかその増えていったものがそれぞれの器官(胃とか肝臓とか、骨とか脳とか)になっていくわけです。最初のころはただの細胞であって、なんにでもなれる細胞、というわけです。肝細胞・神経細胞・表皮細胞……どれにも「枝分かれできる幹」ということで、幹細胞とも呼ばれるわけです。


ここで話を全然別の、クローン生物を作る技術に移します。ある生物の卵子と、適当な別の細胞を用意します。卵子から核を除いて、代わりの別の細胞から核を卵子に入れます。すると卵子はまるで受精卵のように成長をはじめるのです。メスの子宮にこれを移植してうまいこと着床すれば、ちゃんと育って生まれてきます。生まれた個体は、核を取ってきた個体の完全なコピーです。これがクローン技術。
そしてさらに別の話。臓器移植の拒絶反応。私たちの体にある免疫は、自分の体と異物を区別する能力があります。この仕組みはちょっと外れるので割愛。「自分の細胞には自分と分かるようにラベルが貼ってある」と考えるとちょうどいいです。自分以外のラベルが貼ってある細胞、またはラベルが貼られていない細胞や異物は免疫に排除されたり。



もうここで話がつながります。「ES細胞って何?」「クローンは生物のコピー技術」「免疫は自分のラベルを見る」、の3つの点を線につなげてみます。
たとえばあなたは今、お酒の飲みすぎで肝硬変になってしまいました。早く肝臓移植しないと死んでしまいます! でもあなたの「ラベル」に適合するドナーはいない……どうしよう? ここで現代科学は、「ないなら作っちゃえばいいじゃない?」と考えたんです。
誰かから卵子をもらい、あなたの細胞の核を導入します。あなたのコピーは順調に分裂し、やがてES細胞になります。さすがに赤ちゃんになってから殺すのはアレなので、ES細胞を「うまく肝臓になるようにコントロール」するのです。
そして肝臓が出来上がりました。あなたのラベルをつけた肝臓です。免疫の排除はないはずです。そうしてあなたは助かったのです……。
3つの理論があるお話の上に並んでいるのがなんとなく分かりますでしょうか。


このお話のようなことができないか研究していますが、実はまだ、「クローンからできたものからES細胞をとる」ということには成功していません。ES細胞は、本当に卵子精子が合体したマジものの受精卵からしか取れていません。赤ちゃんをばらばらにして……ES細胞は得られるのです。
人工的に成長させた細胞ならまだしも、受精卵は生命そのものです。命を救う研究のために命を軽んじるなんて矛盾しています。こんな研究、絶対に許されませんよね?


ES細胞の研究は理論的なことよりこうした倫理的な問題で遅れているのです。普通に研究するにしたって女性から卵子の提供がないとできないわけですから、これも面倒というか、やってくれる女性は少ないと思います。


ちなみに韓国のあの教授は研究室の女性から、お金をあげる代わりに卵子をもらったそうです。命をお金で、ということになるでしょうか。
ちなみに彼の研究が捏造であることが分かってきましたが、「捏造だ」と看破できるかどうかは決して難しくない話で、むしろ一般の人にどれだけアホな論文を出したか説明したいくらいですw この辺の話はいつかまた。


……これを読んでくれる人はいないと思ってますが、もし読んでいただけた場合、今後のニュースが少し面白くなるかと思います。そういうことがあったら私は非常にうれしいです。