シリーズ・私のバイト先 〜 個別指導塾編(Y君編・その1)

次の紹介するエピソードはやはり僕が新人講師だった頃、前回のA君と同時に見た生徒さんだ。
当時高校3年生だったY君は、僕の見たもっとも古い生徒さんの一人だ。
たまに本人がここを見るために、わざわざ掲載許可をもらってきた。




……「能力が無い」、ということが罪になるなら、僕はY君に何かの償いをしなければならないのかもしれない。
今、そんなことを考えながら、彼との1年間を思い返している。


彼が入塾してきたのは、5月の中旬頃だったと思う。
うちの塾での初めての授業が僕で、彼は少なからず緊張していた。
僕自身もまだまだ全然新人だったので、緊張していた。


僕が授業で変なテンションになってしまうのは緊張感があるかもしれない。
彼との授業でははっきり言ってブッ飛んでしまっていた。


何を話していたか、今ではまったく思い出せない。
幸い僕の話が気に入ってくれたのか、彼は僕を担当にしてくれた。
他の先生を見てみようともせず、即決めだった。


初めての受験生を担当。しかも大学。

自分自身、つい3ヶ月前にその大学受験を終えたばかりだった。
適当に志望校を決め、適当に受験した。


真面目に受験のことなど考えていなかった僕が彼を指導できるのか。


それに、彼の英語力は初め、惨憺たるものだった。
高校生ならばまず理解していないと何も出来ない「文型」。
彼はその一切を知らず、適当に英語をこなしていたのだ。


彼と問題をこなしながら分析してみると、時折中学生の文法も取り逃がしているのが見て取れた。
本当なら「高校生らしい」英語は、一通り理解していなければならない段階である。
彼は中学3年生レベルからやり直す必要があった。


受験まで今の時点で9ヶ月。4年分の課題。
それも出来るだけ早くに志望校の過去問を演習しなければ傾向がつかめないのに。


彼と僕の、体当たりでの受験奮戦記が始まったのだ。