シリーズ・私のバイト先 〜 個別指導塾編(Y君編・その3)

彼が理解できるまでとことんやるか。「一応はやった」ことにしておくのか。
講師として行動するか、塾の構成員として行動するか。


明確な判断を下すだけの冷徹さは無かったし、結局僕は自分の立場も考えずに「真ん中」作戦を取ってしまった。


徐々に上がる問題レベル。反比例する得点。
慣れすぎた関係。解けない問題に対する倦怠感。
挙げれば枚挙に暇が無い。


全てが悪いほうに向かっていた。このままでは彼に行く大学は無い。


僕はついにベテラン講師に助けを求める。
新人の頃から優しくも厳しく指導してくれたF先生、いつだって具体案を即座に出してくれたK先生。


「どうしても受からせたい生徒がいますが、悔しいことに指導力不足です。力を貸してください」


多分目は赤かったのではないだろうか。拳が握られていたのではないか。


悔しかった。自分自身にかかる責任をこなしきれないことがものすごく辛かった。
一生懸命やっていたんですが、なんて言い訳はハナから通用しないことが分かっていた。


――このままでは一人の人間の人生を狂わせてしまう。


そう、プライドが、邪魔だった。




力不足を完全に、卑屈にならず認める。自分は責任をまだ果たすことが出来ないのだから、力を借りよう。
僕は次の生徒できちんと指導できればいいが、彼に「次」は無いから。


冬期講習が近づいてきて。
僕はベテラン講師に様々な案を出してはアドバイスをされていた。


今自分に出来る最大限の努力を。
彼自身に、僕が出来る最大限を。


試験の足音が、聞こえてきた。(続く)