アルファチャンネル付きの夜

ある日の帰り、夜9時の空。一年のうちで最も日が長い今時期といえど、もうとっぷりと日は暮れていたが、「夜が薄い」ことに私は気が付いた。


漆黒に近いインディゴのはずの空は、なぜか宇宙の向こうまで見せるような、紺色だった。
南国の海の色に透明感を覚えると思うが、あれと同じような繊細さが空に見えた。


どれだけ形容詞を並べればこの美しさを表せるか。


その深さは目視できないほど深淵で、広さは視界の大きさに区切られているけど、無限を感じさせた。


いつも通る景色はまるでいつもの街に夏祭りの装飾を施したかのような、そんな嬉しい違和感があった。
どこからか、どんぐりの花のむせ返るような夏のにおいが漏れてくる。


この空を背景に、何もかもが美しい。人工的な直線も、植物の不規則さも。


願わくば、私もその仲間には入れていればよいのだが――。




……などと考えて上を見ながら自転車をこいでいたら、お約束どおり金網に激突しました。
メチャメチャ痛かったのですが、私は嬉しい気持ちを引っさげたまま、今度は「ちゃんと前を見て」家に帰りました。


美しい、理想的なものばかり見ていてもぶつかるばかり。綺麗なものがあると知ったら、ちゃんと前を見るべきだ。


ほら、ちゃんと正面を向いても空は視界の上に、ちらりと見えているから。
あの空にいつかたどり着くように、今はただ、私は一生懸命自転車を漕がないといけないんだ。


そんな現実にあった、ステキチックな夜の話。ちりんちりーん。